安倍晋三の迷言・暴挙

世相

 今は故人となった、安倍晋三の迷言と暴挙は数知れないが,長くなるが上げてみたい。

・集団的安全保障をめぐって民主党岡田克也代表が「きょう、総理が述べたこと一つも納得できませんよ。間違っていますよ。」と疑問を呈したことに対し「我々の提出法案についての説明は正しいと思いますよ.私は総理大臣なんですから」と言ってのけた。絶句である。「総理大臣が言うことは全く正しい」のなら「独裁政権」である。

・共産党の志位和夫との党首討論においては志位和夫の「日本の戦争は間違っていたとする、ポツダム宣言の認識を認めないのか」との質問対し「私はその部分をつまびらかには読んでおりませんから、ここで直ちに論評することは差し控えたい」と答えている。多分戦前、戦中、戦後の歴史を勉強していないのであろう。戦後レジームからの脱却といいながら読んでもいないものから、どう考えたのか。

・ 2020年の東京五輪誘致に向けた、安倍首相のIOC総会におけるプレゼンテーションは日本中を騒然とさせた。スピーチの冒頭で、「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています」と言い切ったのだ。「アンダーコントロール」という英訳も耳に残る。

 IOC委員からの福島第一原発の汚染水についての質問には「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされている」と答えたが、今なお汚染水の発生は続いており、浄化処理をした水を保管するタンクはまもなく満杯になる。処理した水の海洋放出も検討されているが、放射性物質は完全に処理しきれておらず、漁業関係者が強く反対しているという。まったく状況はコントロールされていない。夜中私は聞いていて耳を疑った。

・2015年2月19日衆議院の予算委員会で、民主党の玉木雄一郎が砂糖業界団体への寄付を「脱法献金」と追求していた時、安倍首相が「日教組!」「日教組。どうするの!」と唐突にヤジを飛ばした。玉木から「総理、ヤジを飛ばさないでください」「日教組は関係ないじゃないですか」と繰り返し、大島理森予算委員長から「総理も、ちょっと静かにしてください」とたしなめられた。これに対し

「これほど軽くて無責任な首相発言は聞いたことがない」(毎日新聞)

「日本政府の最高責任者だから、ヤジにもそれなりの気品が必要だ」(谷垣禎一幹事長)

など「無責任」、「矜持や品位」「言葉の軽さ」に疑問を呈するものが多かった。

その後日教組からの献金がなかったことが分かり安倍は陳謝することになる。

・2015年5月28日民主党辻元清美が中東ホムルズ海峡での自衛隊の機雷掃海をめぐり発言している途中安倍首相が遮るように「早く質問しろよ」と声を上げ、議場が騒然となった。後で安倍は謝罪するのであるが、ヤジ問題を大きく取り上げるのは一部の新聞で,安倍政権の広報誌のような新聞はもとより,テレビもあまりとりあげず、この風潮を危惧する声も多かった。

・2015年6月4日に開かれた衆院憲法審査会は非常に面白かった。与野党の推薦された3人の憲法学者が、安全保障関連法案を3人とも「憲法9条違反」との見解を示した。自民党が呼んだ憲法学者も真っ向から否定したので、自民党の面目は丸つぶれで、菅義秀官房長官が記者会見で、「『違憲じゃない』と言う憲法学者もいっぱいいる」と語ったが、小林節慶応大名誉教授は「日本の憲法学者は何百人もいるが、違憲でないとするのは2,3人で、違憲と見るのが学説的な常識であり、歴史的常識だ」と述べる。これに対し自民党は学者批判に走る。高村正彦副総裁は「国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、自衛に必要な措置が何であるか考える責務がある。これを行うのは憲法学者ではなく、政治家だ」、古屋圭司は「学者が違反と言っているから『廃案』というのはおかしい」、平沢勝栄は「憲法栄えて国滅ぶという愚を犯してはならない」と語った。他にも安倍は「自国の安全を全うするために必要な自衛の措置をとりうる」とした砂川事件の最高裁判決を持ち出し正当化しようとしたが、判決は在日米軍基地の合憲性を問うもので、稲田朋美が「憲法解釈の最高権威は最高裁。憲法学者でも内閣法制局でもない」と語りこれにも驚いた。この時の国会の模様はDVDに録画して山のようになっている。 

・特定秘密保護法の強行採決後には……

 事実はどうあれ、自分の好きな話を、言い切ってしまう。そして、あとは追及されても知らん顔。これが安倍首相の常套手段である。

「私自身がもっともっと丁寧に時間をとって説明すべきだったと、反省もいたしております」

 国内の多くの反対を押し切って強行採決をしたのが特定秘密保護法だった。NHKが行った世論調査では、国会で議論が尽くされたと思うかどうかについて、「尽くされた」が8%に対して「尽くされていない」が59%に達した。

 そんな状況に対して安倍首相は記者会見で「真摯に受けとめなければならない」とし、「丁寧に」「説明すべきだった」と「反省」しているのだが、このような言葉は後に何度も繰り返されることになる。

・また、安倍首相は「今ある秘密の範囲が広がることはありません」と言い切ったが、特定秘密を記録した行政文書の廃棄は進んでいてチェックも十分ではない。さまざまな情報が闇から闇へ消えていっていることは、国民は後から知ることになる。

「我が党においては結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」

 これはTPPを審議する国会での発言。「民主主義のルールにのっとっていくのは当然のこと」と胸を張ったが、前年9月の安全保障関連法案の審議では与野党議員が揉み合う中、採決を強行したばかりだった。どの口で言っているのだろう。

・ 「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」

 安倍昭恵夫人が名誉校長を務めていた学校法人「森友学園」の国有地払い下げ問題に関して、安倍首相が国会で放った一言は大きな波紋を呼んだ。「忖度」という言葉が注目を集める一方、とにかく証拠が出てきてしまったら安倍首相が議員辞職しなければいけないとあって、大規模な公文書の隠蔽、改ざん、破棄が行われ、改ざん作業を指示された財務省近畿財務局の職員が自殺に追い込まれた。

 安倍首相の「腹心の友」加計孝太郎氏が理事長を務める「加計学園」の獣医学部新設問題になると、「これは総理のご意向」と書かれた文書や「本件は首相案件」と書かれた備忘録などが飛び交った。安倍昭恵夫人が公開した安倍首相、加計氏らの写真につけられた「男たちの悪巧み」というフレーズも話題になった。

「モリカケ問題」と呼ばれて疑惑はくすぶり続け、安倍首相は「真摯に説明責任を果たしていく」「丁寧に説明する努力を積み重ねていく」と繰り返したが、まともな説明はなされないままだった。

・ 象徴的だったのが、17年7月の東京都議選、秋葉原駅前での街頭演説での発言。安倍首相は政権批判の声を上げる聴衆を指さして「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を張り上げた。一国の首相が国民をはっきりと「分断」してみせたのだ。「味方」は手厚く遇し、「敵」は徹底的に干し上げる。「分断」と「排除」が安倍首相の一貫した政治手法だった。

 安倍首相の失言は東京都議選の惨敗を招くが、その後、北朝鮮のミサイル実験が始まると「Jアラート」を連発。10月の「国難突破解散」による衆議院総選挙で圧勝してみせた。

・「次は私が(北朝鮮の)金正恩(キムジョンウン)委員長と向き合う番だと思っている」

 安倍首相は北朝鮮による拉致問題を「政権の最重要課題」と位置づけ、解決に意欲を燃やしていたが、結局、解決の糸口は見いだせないままだった。

 2017年から繰り返されていたミサイル発射実験を契機に、北朝鮮に「あらゆる方法で圧力を最大限に高める」と強い態度で臨んでいた安倍首相だが、トランプ米大統領が2018年6月に金正恩委員長との会談を実現させると、途端に「私が向き合う番」と発言した。しかし、その後もトランプ大統領頼みだった感は否めない。 2019年5月にも「私自身がキム委員長と条件をつけずに向き合わなければならないと考えている」と語ったが、それまでの強硬姿勢への反発からか、北朝鮮側は取り合わなかった。

・「モリカケ」問題を経て、安倍首相は「悪夢のような民主党政権」と繰り返すようになる。民主党時代の混乱を印象づけ、弱体化していた野党を叩くことで政権の支持率を上げるよう画策したように見える。経済や外交などの政策で成果を上げていないことの裏返しのようでもある。

 ちなみに2012年の首相就任会見では、「過去を振り返っても、あるいは前政権を批判しても、今現在、私たちが直面をしている危機、課題が解決されるわけではありません」と話していた。「悪夢のような民主党政権が誕生した。あの時代に戻すわけにはいかない」と発言。この発言については、民主党元代表の岡田克也議員が国会で撤回を迫ったものの「少なくともバラ色の民主党政権でなかったことは事実」「岡田さんは反省がないのか」と反論し、撤回せず。その後も同年5月に行われた政治パーティーなど、安倍首相は幾度となくこのフレーズを使用しており、もはや安倍前首相の“お気に入り”のひとつといえそうだ。

・北方領土問題も“やっている感”だけだった

「ゴールまで、ウラジーミル、2人の力で駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」

 北方領土問題も解決にはほど遠かった。安倍首相は交渉の過程で何度も「前進」「加速」「力強く」という言葉を繰り返したが、結局は「やっている感」の演出でしかなかった。

 27回も行った日ロ首脳会談は安倍首相がロシアへ行った回数が圧倒的に多く、「朝貢外交」と批判された。ロシアへの経済協力を約束し、4島返還から2島返還へ転換したが、その後、音沙汰がない。プーチン大統領は2020年2月、自国の憲法改正にあたってロシアの領土を譲渡することを禁止すべきだという提案に「アイデア自体は気に入った」と発言している。

・ 「幅広く募っているという認識でございました。募集しているという認識ではなかったものです」

 また疑惑が噴出した。「桜を見る会」だ。「各界で功労・功績のあった方々を慰労する」という趣旨の会に、安倍首相は自分の支持者を大量に招いて私物化していた。2019年は8894人を招き、予算は5518万円。自民党関係者の推薦枠が6000人、安倍首相の推薦が1000人、「私人」である昭恵夫人の推薦枠もあった。

 そもそも安倍首相は「桜を見る会」でこのように挨拶している。「皆さんとともに政権を奪還してから7回目の桜を見る会となった」。自分の味方が集まる場所だったことは明確だ。「募集」の意味がわかっていないかのような安倍首相の国会での珍答弁は失笑を招いたが、招待者名簿がシュレッダーで破棄されていた。公文書の破棄の常態化は安倍政権の負のレガシーと言っていい。

・辻元清美の質問直後「意味のない質問だよ」と言い放った。安倍晋三は辻元清美の質問は「罵詈雑言の連続だった」と釈明したが、国会軽視との批判を浴びた。その後謝罪している。

・「国会中継を子どもに見せたくない」と人々に思わせるようになったのも、安倍政権の負のレガシーかもしれない。

 これは2019年2月、国会で「桜を見る会」について追及されたときに安倍首相が放ったヤジ。その他にも「日教組は(献金を)やっているよ」「早く質問しろよ」「まあいいじゃん。そういうことは」「反論させろよ」などと安倍首相のヤジは枚挙に暇がない。調べによると2019年だけで26回のヤジなど不規則発言が記録されていたという。

・「私が話しているのは真実。それを信じてもらえないということになれば、予算委員会が成立しない」

 安倍政権の大きな特徴は国会の軽視だ。議論するための委員会を開かない、資料の公開を拒否する、疑惑のある政治家が出てこないなどなど……。「モリカケ問題」の頃から、国会での質疑で質問に答えているふりをして、論点をずらしたり、はぐらかしたりする「ご飯論法」も話題になった。話の帳尻がつかなくなれば、公文書を廃棄、改ざんする。

・「堂々と嘘をついてもいい」と知らしめた政権。

 自分たちの利益のため、目先の結果のためなら、堂々と嘘をついてもいい。それを多くの日本人に知らしめたのが安倍政権だったと言えるだろう。結果のためならプロセスは不透明でも構わない。そこには法秩序も倫理観もない。その現れが「桜を見る会」の前夜祭についての質疑への安倍首相の答えだ。「私が話しているのは真実」。つまり、自分が正義、自分が法ということだ。

 検察幹部の定年延長問題に火がついたのはこの頃のこと。新型コロナウイルスの感染拡大と政府の初動の鈍さ、そしてその裏で何かがまた蠢いていることに気づき、国民も「いい加減にしろ」という気分になってきていたのだろう。

・「森羅万象すべてのことに答えなければならない立場ではありますが」

2019年2月の参議院予算委員会において、厚生労働省で起きた毎月勤労統計の不正調査問題を巡り、国民民主党の足立信也議員が、特別監察委員会の報告書を安倍総理が読んだかどうかを質問。これに安倍首相は読んでいないことを明かしつつ「総理大臣でございますから、森羅万象すべてを担当しておりますので。(中略)これ日々さまざまな報告書がございますが、それをすべて精読する時間はとてもない」と、その理由を釈明した。これについて、「森羅万象すべてを担当するということは、安倍首相は神なのか?」「つまり現人神ってこと?」等々、トンデモ発言として嘲笑しつつも批判する声が殺到することとなった。

・「立法府の長であります」

2016年5月の衆議院予算委員会において、民進党(当時)に所属していた山尾志桜里議員が、同党が提出した保育士の給与を上げる法案について、国会で議論がなされないことを批判。安倍首相はこれに対し、「山尾委員はですね、議会の運営ということについて、少し勉強していただいたほうがいいと思うわけでして。議会についてはですね、私は立法府の長であります」と発言。三権分立上、立法機関である国会の長は衆議院および参議院の議長であり、安倍首相は当然ながら「行政府の長」。あまりの衝撃答弁に、安倍首相の後ろにひかえていた石破茂地方創生担当大臣(当時)も驚愕の表情で安倍首相を見上げるという事態に。ちなみに安倍首相は、第1次内閣当時の2007年、そして2018年11月にも同じく国会において同様の発言をしており、2007年時には質問に立った簗瀬進議員から「あなたはそういう意味では、『行政府の長』であります」と正しく訂正されている。

・自民党に若手議員による勉強会で「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番。不買運動じゃないが、日本を過つ起業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけて欲しい」と大西英男が声を上げたのに対し、「沖縄の2つの新聞社(沖縄タイムス、琉球新報)」はぜったいにつぶさないといかん」と百田尚樹が語り、報道威圧発言は波紋を広げた。2023年の放送法の行政文書を読むと、この頃の様子が分かり面白いが怖くなる。さらに百田は沖縄県民を貶める。「元々普天間基地は田んぼの中にあって,周りに何もない。そこに基地があるので商売になるから、みんなが住みだした。今や町の中に基地がある。騒音がうるさいのは分かるが,そこを選んで住んだのは誰だと言いたい。基地の地主達は大金持ちである」さらに「左翼は基地があるから,米兵が沖縄の女の子を強姦すると批判するが、データ的に見ると酷い嘘だ。沖縄県全体で見ると、沖縄人自身が起こすレイプ事件が、はるかに率が高い」との発言に言葉がない。百田は安倍と馬が合い、共著もあり、官邸の推薦でNHK経営委員もした。三井物産の籾井もNHKの会長になった。田原総一朗はいう「かつての首相は番組で突っ込まれるとわかっていても、国民と向き合う使命感から局を選ばず出演した。」「でる側も出す側も真剣勝負だった。安倍晋三は嫌なことを言う番組をさけ、言いたいことだけいい、真剣勝負になっていない」。官邸から番組の関係者にはお金がばらまかれたようだ。佐高誠と同級生の亡くなったサンデーモーニングの岸井成格は突っぱねたという。

・放送倫理・番組向上機構BPOは、日本放送協会(NHK)や日本民間放送連盟(民放連)とその加盟会員各社によって出資、組織された任意団体である。そもそもは政府の圧力を排除するために作った組織なのに、政府が関与する組織作りを考え、政府側の人間や官僚が入ってくると言うのは本末転倒である。

・ 1カ月以上も途絶えた記者会見

 動画に添えられた一文の「友達と会えない。飲み会もできない」も豪華な会食ができない安倍首相の嘆きのようだった。疑惑渦巻く中、コロナ禍で中止になった「桜を見る会」がちょうど1年前の4月13日に行われていたのだから、勘ぐられても仕方がない。

「マスク市場にインパクトがあったのは事実」

 後手にまわるコロナ対策への批判が続く中、安倍首相が打ち出した乾坤一擲の政策は「アベノマスク」だった。佐伯耕三首相秘書官が「全国民に布マスクを配れば不安はパッと消えますよ」と発案して決定したという。マスク市場にはどうだったかわからないが、国民にはすさまじい「インパクト」だった。税金を466億円も投入したわりに品質もイマイチの上、調達の不透明性も報じられた。

 6月17日、検察庁法改正案が廃案になる。「#検察庁法改正案に抗議します」のツイッターデモの影響もあったようだ。そして6月18日以降、安倍首相の記者会見は1カ月以上途絶えることになる。首相周辺からは「会見しても良いことは何もない」という声が漏れていたという。

 安倍首相は、これまで何度も難局を乗り切ってきた「なにもしない戦略」(疑惑が発生したときは極力、発信を控えて忘れた頃に選挙に打って出る)を繰り返そうとしたのかもしれない。しかし、一向に収束しないコロナ禍の中で、今回ばかりは忘れてもらえなかった。

「レガシーは国民の判断すること。歴史が判断していくことだと思う」

 辞任会見でこう語った安倍首相。今後、外交や安全保障などについて、安倍政権のレガシーが評価されることがあるかもしれないが、同時に森友・加計問題、公文書改ざん問題、桜を見る会問題、河井夫妻問題などについての追及も行われなければいけない。

 ところが、この安倍晋三はもういない。誰を、どこを追求すれば良いのか。そして今、パーティー券を巡る裏金問題が日本の政界を揺るがしている。政治と金の問題は昔からあった。今に始まったことではない。安倍晋三が阿部派のキックバックという不正行為を辞めようとしたと言うが、果たして生きていたらどうなっていたか。

 なにより、「嘘」「ごまかし」「不公正」など、安倍政権の「負のレガシー」を一掃する必要がある。それは我々国民の役割である。

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