推理小説には昔から、「密室殺人」を扱ったものが多い。そのヒントになったのが19世紀初めのフランスはパリで起こった事件である。被害者はモンマルトルに住む少女で、ある朝いつまでたっても起きてこないことに不審に思った管理人が、警官と共にドアを蹴破って部屋に入ったところ、少女は胸を刺されて絶命していた。アパートは窓も、玄関も内側から鍵がかけられており、典型的な「密室」であった。結局、犯人はどうやって少女を殺して部屋から出たのかさえわからず、事件は迷宮いりとなった。しかし、この事件はエドガー・アラン・ポーなどの推理小説家の創作意欲に火をつけ、推理小説は一気に花開き、作家達は、密室殺人のトリックに凝った。
日本の推理小説では江戸川乱歩、横溝正史、高木彬光等がいる。その後社会派の松本清張が出てくる。
ジョン・ディクスン・カーの「密室の講義」(The Locked Room Lecture) において探偵役のフェル博士に、密室殺人に用いられるトリックを分類させている。概略は以下の通り。
まず
●秘密の通路や、それを変型させた原理は同じものを除外した上で(博士はきたないやり 方と評した)
●密室内に殺人犯はいなかった
1偶発的な出来事が重なり、殺人のようになってしまった
2外部からの何らかにより被害者が死ぬように追い込む
3室内に隠された何らかの仕掛けによるもの
4殺人に見せかけた自殺
5すでに殺害した人物を生きているように見せかける
6室外からの犯行を、室内での犯行に見せかける
7未だ生きている人物を死んだように見せかけ、のちに殺害する
●ドアの鍵が内側から閉じられているように見せかける
1鍵を鍵穴に差し込んだまま細工をする
2蝶番を外す
3差し金に細工をする
4仕掛けによりカンヌキや掛け金を落とす
5隠し持った鍵を、扉を開けるためガラスなどを割ったときに手に入れた振りをする
6外から鍵を掛け鍵を中に戻す
と分類している。
また、H・H・ホームズ(アントニー・バウチャー)も『密室の魔術師』(1940)で密室の分類を試みている。
●部屋が閉ざされる前に犯行が行われたもの。
●部屋が閉ざされている間に犯行が行われたもの。
●部屋の密室が破られてから犯行が行われたもの。
カーと比較すると単純な分類ではあるが、犯行が「いつ」行われたのかという点に目を向け、分類に時間軸を加えている点で重要である。
若い頃から推理小説はよく読んだ。横溝正史、高木彬光はほとんどよんだように思う。純文学と違って気張らず読めた。ただ松本清張は、社会派的推理小説に、ちょっと違った読み方だったように思う。『ある「小倉日記」伝』は推理小説ではないが印象に残り、その後の歴史物には一層興味を持った。昭和史を書き上げてくれたら、どんなに良かったことかと惜しまれる。