福井県高浜町の元市長今井利一への「原発警備犬」を利用した暗殺未遂が、斉藤真の「関西電力反原発町長暗殺指令」で明らかになった。関電若狭支社幹部Kの依頼で原発の警備会社を始めた加藤義孝と犬のブリーダーの矢竹雄兒が警備犬を使って今井を暗殺しようとしたことを斉藤に打ち明け、実名で告発する事になる。それは『週刊現代』に2回に分けて掲載された。しかしこの反応はなかった。新聞など報道機関も何もなし。
原発周辺では、広域暴力団の直参団体から、同和団体関係者、解体業を含む企業舎弟などが出入りしていて、個別の案件で動いていたという。原発関連業者だけでなく、高浜町が原発で潤っていたこともこの本でよくわかる。町中民宿だらけの高浜で夏は海水浴客、冬は原発作業員で一年中満員だそうだ。エチゼンクラゲの話は興味深かった。原発を作動するためには大量の冷却水が必要だが、夏になるとエチゼンクラゲが大量に発生し、取水口に大量に入り込んで詰まらせる。クラゲの除去に地元の下請け業者を使うのであるが、その補助金を申請するとすぐ通るという。クラゲを取り除いた業者は、それを殺さないで遠いところでは駄目で取水口にまた来るように近い海に戻すという。するとクラゲの除去の仕事がまた来るというのである。議会対策も、原発賛成派で過半数になるように取られていたという。プルサーマル(ウランとプロトニウムを混ぜたMOX燃料を使った原子力発電)の住民投票では、今井町長は反対する。しかし町民に安全でないものには、異を唱える今井町長は、関電から煙たがられたようだ。これが、反原発町長暗殺指令につながるのである。そして、産経新聞の記者、共同通信社の記者の動きは訝しい。産経新聞は、福島第一原発事故の後全国的に募る放射能の危機感を、火消しに走るような記事を一面に載せたり、東京電力擁護の論説も載せたりしている。元来が原発推進の立場のメデイアである。
『週刊現代』に掲載された後、関電は動かない。何の反応もしない。関電上層部も知っていたといのに、どうしたのだろうか。それが突然、加藤義孝と矢竹雄兒のKへの恐喝で二人が逮捕されるのである。関電もKも反応しなかった告発記事。それが、このような形で「反応」があり、全国紙各紙が記事にしている。
警察では静かな取り調べで「交通事故みたいなもの」との警察官の発言、Kの調書には「襲撃の計画は加藤がした・・・」とあったそうである。
裁判も酷く、加藤は「結論ありきの裁判でしたわ。その最もひどい例が(検察官が)向こう側(k)には反対尋問を殆どしないのです。裁判官も、検察権には殆ど何も訊かない。kもこちらの弁護士の質問(反対尋問)に満足に答えようとしません。初めから、結論ありきの裁判やと思うのも仕方ないやないですか」と語っている。関電と警察がつるんで臭いものにフタをしようとした疑いが濃厚で、この事件には関電と政界のパイプ役として暗躍した関電元副社長の内藤千百里の息子もからんでいる。
全国の原発のある地方の行政で、福井県高浜町の元市長今井利一のような長は希で、殆どは電力会社のいいなりで、原子力も勉強していないのであろう。
福井県高浜町の元助役、森山栄治から関西電力の会長だった八木誠や社長の岩根茂樹らに原発マネーが還流していたことが分かった。本書でのMは森山栄治だったのである。