貧困層の問題 

世相

 貧困層とはどういう人たちを指すのであろうか?日本では、相対的貧困率という指標で貧困層を測っている。相対的貧困率とは、等価可処分所得の中央値の半分未満の世帯の割合である。等価可処分所得とは、世帯の収入から税金や社会保障費などを引いた金額を、世帯人数の平方根で割って調整した所得であり。これは、世帯の大きさや構成によって生活水準が異なることを考慮したものである。

 厚生労働省によると、2023年7月報道され、日本の相対的貧困率は15.4%で米国、韓国にも抜かれ、先進国で最低の数値だそうだ。つまり、約6人に1人が貧困層に該当するということである。この割合は、2003年からほぼ横ばいで推移していて、また、性別や年齢によっても相対的貧困率に差がある。例えば、女性の相対的貧困率は18.6%で、男性の13.0%よりも高くなっている。また、18歳未満の子どもの相対的貧困率は16.8%で、65歳以上の高齢者の相対的貧困率は19.0%で、いずれも全体平均よりも高くなっている。

貧困層は、社会的に最も不利な立場にある人々で、所得や資産が低く、生活に必要な最低限の物資やサービスを得ることが困難な状況にある。貧困層は、教育や医療、雇用などの機会にもアクセスしにくく、社会的に孤立したり差別されたりする可能性が高い。貧困層の問題は、個人の問題だけではなく、社会全体の問題である。貧困層が増えると、経済成長や社会的安定に悪影響を及ぼすだけでなく、人権や人間の尊厳にも関わる問題で、貧困層を支援することは、社会的正義や平等を実現するために必要なことである。

 日本の貧困層はどんな生活をしているのであろうか?貧困層になる原因はさまざまであるが、一般的には低賃金や非正規雇用、失業や離婚などが挙げられる。これらの要因によって、生活に必要な支出をまかなうことが困難になり、食事や衣服や医療などの基本的なニーズを満たすことができなかったり、教育や文化活動などの社会参加を制限されたりする。また、貯蓄や資産が少ないため、急な出費や将来への備えができない。さらに、貧困層は社会的に孤立しやすく、精神的なストレスや自己肯定感の低下などの問題も抱えている。

 日本では、貧困層に対する支援策が十分ではない。政府は最低賃金の引き上げや年金制度の改革などを行っているが、それだけでは貧困問題を解決することはできない。また、社会保障制度や税制度も再分配機能が弱く、所得格差を縮小する効果が限定的である。さらに、貧困層への偏見や差別も根強く存在し、彼らが自立する機会や支援を受ける権利を奪っている。また、貧困層の声を聞き、参加や自立を促すことも重要で、貧困層は、被動的な受益者ではなく、能動的な主体として扱われるべきである。また貧困は単一の問題ではなく、多面的で複雑な現象であり、貧困に対する理解と対策は常に更新される必要がある。

  古い資料(2022年11月22日)になるが考えてみる。日本における貧困率には都道府県でばらつきがあり、低い地域と高い地域に差がある。その中でも特に高い貧困率となっている地域に沖縄県、高知県、鹿児島県、徳島県がある。別の資料では大阪府、宮崎県が入っているが、今回は先の4県に絞って考える。その地域の特性や置かれている環境などが貧困率を高めているという背景が見られるが、共通項などもあり貧困率が高い要因としても注目されている。

沖縄県

沖縄県が発表したデータによると、子どもの貧困率は2016年時点で29.9%となっており、全国平均の16.3%を大きく上回る結果となった。2013年までのデータでも、これまでの貧困率の高さが全国平均順位2位となっている。その背景として沖縄県では非正規雇用率が高いとされており、2018年には県内で43.1%となって、全国的に見ても第1位であり、全国の38.2%を大きく上回っている。また最低賃金の全国平均が961円なのに対して沖縄県は853円となっており、時給にして108円もの差が開いている。貧困の要因として大きく見られているのがひとり親世帯であり、特に母子家庭の出現率は5.46%となっており、全国の2.65%を上回る結果となっている。つまり沖縄ではワーキングプア層が多く、また貧困に陥りやすい母子家庭が多いことから貧困率が高くなってしまっているのである。

鹿児島県

鹿児島県の最近のデータによると2013年の貧困率は14.3%となっており、2015年の全国平均13.9%を若干上回る結果となり、過去の平均順位は4位と高い傾向にある。同年の貧困率のうち、母子世帯では40%以上になるという調査結果が出ており、このうちの44.3%は非正規雇用で、等価化処分所得(世帯の可処分所得を世帯の人数の平方根で割ったもの)が122万円未満の世帯は39.7%、122万円以上244万円未満の世帯は35.1%となっており、単純にあわせても74.8%もの母子世帯が低い所得で生活していること分かる。

高知県

高知はこれまでの貧困率の高さが全国平均3位、貧困率は16.1%となっている。高知県でも全国でも上位になるほどひとり親世帯が多く、このうち正社員率は56.7%と低い水準である。年間就労収入が200万円以下は56.8%にもなるという調査結果が出ている。これはパートや臨時職員など非正規雇用として雇われることが多く、安定した収入が得られない状況が続いてしまうためであり、特に女性の割合が高いことで母子家庭の貧困率を高めてしまっているものと推測される。

徳島県

徳島県でも過去の平均順位は鹿児島同様4位、貧困率も2017年で15.5%と高くなっている。その要因として、徳島県は離婚率が高く、ひとり親世帯になった原因の約9割が離婚によるものとなっている。これにより母子家庭となってしまった世帯の8割近くは経済的に困窮しており、この状況に対する支援が行き届いておらず、またさらなる貧困が生まれてしまう状況が続いている。

 全国的に貧困率のばらつきが生じるのは、上記の4県に見られるようなひとり親世帯の多さや、物価、賃金の安さ、地域特有の様々な要因が係ってくる。また現在は都市に人が集まる傾向にあるため、地域によっては過疎化や高齢化が進むことにより、地域全体が経済的に低迷してしまっているという要因もある。離婚率の上昇によるひとり親世帯の中でも母子家庭の場合は正社員として働くことが難しく、収入が安定しないことから貧困となってしまうケースが多いこともわかっている。さらに地方になれば物価が安いことで、全体的な賃金にも影響を与えてしまうことも少なくない。これらの要因による貧困は子どもの貧困率の高さにもつながり、貧困が就学や就職に影響してしまい、家計が厳しいために進学をあきらめる人も少なくない。そして低学歴での就職は満足な収入を得られる職に就くことが難しい傾向にあり、結果として低賃金となり貧困は連鎖してしまうのである。貧困は1つの要因ではなく、複雑に絡みあい、全国的にも多くの貧困を生んでしまっている。このような貧困を解決するには、根本にある原因を見定め、対策を行っていく必要がある。

 私たちは何ができるであろうか?まずは、今現在の貧困層の現状や課題を知ることが大切である。

タイトルとURLをコピーしました